ミラノ・サローネ「WA-Qu」展 和のモダン提案
世界のデザイントレンドを決める最も重要なイベント、ミラノ・サローネが4月13日から18日にかけてイタリア・ミラノで開かれた。今年で3度目となる「WA-Qu」展も200平方メートルの会場を借りて出展した。
「WA-Qu」展とは和の空間を意味する名称であり、京都を拠点に活動するデザイナーや建築家、アーティストなどが自然発生的に集まって京都の創造性を 世界に試そうというひとつの実験でもある。メンバーは固定ではなく、今年は私のプロデュースにより、谷口一也、杉木源三、山下順三、辻村久信、關聡志、寺 尾純、角直弘、堀木エリ子の諸氏が参加した。
「WA-Qu」のコンセプトは一言でいえば和のモダンデザインである。
一般にデザインとは意匠と訳されているが、実はデザインとはもっと幅の広い活動で、製造からマーケティングまでかかわっており、意匠はその一部にすぎない。
われわれのめざす和のデザインとは、現代の生活空間に合ったスタイルを伝統的な素材や工芸技術によって新たに作り出そうということであり、モノだけのデザインではなく空間すべてを含めたデザイニングなのである。
今年の「WA-Qu」展は、家具・照明などの作品を展示するスペースと、離れにはモダンでありながらも伝統を踏襲した茶室を設け、オープニングレセプションとして木村宗慎氏による茶会も催した。
和の空間を直に味わってもらうために企画したお茶会だが、招待した欧米のジャーナリストや建築家、デザイナー達が正座してお点前に見入る目つきは真剣そ のものであり、彼らの日本文化への憧憬と興味は予想以上であった。多くの来場者でにぎわった展示会の成果を検証するにはまだまだ時間がかかると思うが、既 に、日本のメディアだけでなく、イタリア、ドイツのデザイン誌からも各作品への取材依頼が入っている。
今年のミラノ・サローネは日本のデザイナーの活躍が特に目立った年であった。思えば、1970年を境に自国の文化を捨て去り西洋追従一辺倒で来た日本の デザインは、いよいよ世界に追いついたわけだが、皮肉にもその西洋は方向を見失って久しく、アジア特に日本の伝統文化の中に次のデザインソースを求めてい るかのようである。
1960年代までの日本には、独自のデザインを求めて「ジャパニーズ・モダン」を提唱し時代を疾走した剣持勇のような巨人がいたが、今はそんな気概のあるリーダーは存在するのだろうか。
昔から新しいもの好きで進取の気性に富む京都人は、先端技術でも多くのベンチャー企業を生んだが、衣食足りて本格的な住の時代を迎えた今こそ、日本人の精神性に根ざした生活文化を世界に発信するべきではないか。
〈デザインプロデューサー 中塚重樹〉